9月12日-21日にかけて、イギリスブライトンで行われていたQGISハックフェスタと、同国ノッティンガムにて行われたFOSS4G ノッティンガムに参加してきました。これに先立ちバーミンガムで開催されていたオープンストリートマップのカンファレンス、SotM(State of the Map)には残念ながら参加できず。行きたかった!9月には上記イベントを初め、いくつかの地理系イベントが重なってイギリスで開催されていた為、Maptember などと言われていました。
FOSS4Gは、4年前にバルセロナで開催された時から毎年行っているのですが、オークニー森さんがブログで書いている とおり、近年著しく変化の激しいオープンソースGIS業界において、もっとも最新の状況を知ることができる良い機会です。昨年は北京で開催される予定だったのがキャンセルされ、2年ぶりの開催となりました。会場となったカンファレンスセンターは、ノッティンガム大学の敷地内にあったのですが、この大学がとにかく広い!こんな感じ。
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最近の国内のFOSS4Gコミュニティは活性化していると思うのですが、バルセロナやデンバーの時に比べると、日本から仕事として来ている人が少なく感じたのが気になりました。800名を超える参加者が40カ国以上から参加したということなのですが、日本からの参加者はわずか7名程度。例年より少なかったのはどうしてだろうか。FOSS4Gだけでなく、多くのカンファレンスは、参加しなくてもアーカイブやスライドなどからだいたいの状況を知れることが多いのですが、オープンソース業界は、フェイストゥーフェイスで一度会っておくことが大きな価値を生む業界。オープンソース系カンファレンスとは、単なる情報交換や製品発表の場ではなく、コミュニティ形成の場のはずです。普段GitHubやメーリングリストでしか会ったことのない開発者同士が出会い、利用者がどのようにソフトウェアを使っているかを聞き、今後の開発の方向性を決める。ビールを飲みながらお互いのソフトウェアやGISについて語り合う。そういった中から信頼感が生まれ、その後のオンラインでの対話がスムーズに進んで行く。そこには、高いカンファレンス費用や旅費を払ってでも行く価値のある機会があります。今回、会社からは私含め3名が参加しましたが、皆とてもモチベーションを高めて帰ってきたと思います。
さて、今回の旅についての雑感ですが、今回一番驚いたのがQGISの盛り上がりぶり。カンファレンスでの発表でも、開発者の一人であるTim Suttonの発表に対して、スタンディングオベーションが巻き起こるほどでした。実は私個人はウェブ系が専門だったこともあり、QGISはたまに使う程度であまり深くは使ったことがなかったのですが、今回 QGISハックフェスタに参加してみて、その凄さに改めて目を開かせられました。QGISのダウンロード数は急激に伸びていて、機能も商用製品を凌駕するほどになってきています。ハックフェスタには、40名ほどが参加し、4日間にわたりひたすらもくもくとコードを書いたり、発表とディスカッションをしていました。驚いたのが、昼食、夕食、そして会場からノッティンガムまでの移動費まで含めてなんと無料!オーガナイザーのホスピタリティには本当に頭が下がりました。(食事が1日を除いてピザとサンドイッチだったのだけは少々閉口しましたが。QGISのソースコードはピザでできています ;) )日本でも、ハッカソンではなく、こういう長いもくもく会みたいのやってみたいと思いました。
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Hackfestではウェブサイトの翻訳や仕組みの構築を手伝ったこともあり、翻訳回りのコミッタとなってしまいました。QGISウェブサイトの翻訳は、Transifex に移行しましたので、関係者の皆様におかれましては、そちら からご登録いただけましたら幸いです。
また、会社にはQGISに詳しい人間もいるので、これを機会にQGISの商用サポートサービスを始めることにしました。ご興味のある方は是非お問い合わせください。トレーニングコースなども順次作っていきます。
FOSS4Gもやはりオープンデータがとても話題になっていました。欧州連合では、2007年に加盟各国の地理空間情報をオープン化するINSPIRE(Infrastructure for Spatial Information in the European Community)というプログラムを開始。政府データのオープン化、標準化を進めると同時に、オープンソースソフトウェアの利用を積極的に推進しています。そのため、発表の中でもINSPIREやOGCのキーワードが多く聞かれました。日本における国土地理院にあたる、イギリスのオーディナンスサーベイの講演でも、オープンソースソフトウェアの活用を力強く宣言していました。(オーディナンスサーベイのブログ記事 )オーディナンスサーベイはFOSS4Gのプラチナスポンサーにもなっています。
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3年前のバルセロナでは、「Your software is useless, without data」という言葉が印象的で、いかにデータを集めてくるかというのが課題になっていたのですが、今ではOSMも品質が大幅に向上し、オープンデータにより様々なデータが入手できるようになったため、話題は「多種多様な地理空間データをどのように表現するか」というビジュアライゼーションの領域に移っているような感じでした。一方日本はまだまだオープンデータが進んでいないので少し歯痒い思いをしました。
ジオリパブリックとしては、私が pgRoutingのワークショップを一本、pgRouting のプレゼンテーションを1本、松澤さんがSVG Mapのプレゼンテーションを一本やりました。ワークショップは、OSMのデータを使ってpgRoutingで経路探索をできるようにしたあと、OpenLayersとGeoServerを使ってブラウザから使える簡単な経路探索を実装するというもの。OpenLayers/GeoServerパートはCamptocampのイーブスさんが担当しました。私はpgRoutingのワークショップは初めてだったのですが、50名ほどの参加者が集まり、お陰様で盛況でした。全体で4時間、私のパートだけでも2時間強あるというなかなか長いものではありましたが、多くの人が最後まで到達していました。テキストは ワークショップページ ) にありますので、興味のある方は試してみてください。
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プレゼンの方は、FOSS4Gで正式リリースした、pgRouting2.0 のお話。以前のバージョンではあまり綺麗でなかった部分を書き直し、探索アルゴリズムも増えました。インストールもだいぶ楽になっています。以前よりだいぶ安定して動くようになっているはずですので、是非使って見ていただければと思います。こちらのプレゼンは、ワークショップに比べるとちょっと固くなってしまいました。自分で全部スライド作らなかったのが敗因かも。練習時間も足りなかった。
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松澤さんのSVG Mapについてのプレゼンも、かなり良かったのではないかとおもいます。端から見てもすごい緊張してましたが。セッションチェアの人の紹介やフォローもとても良かったです。
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新しい技術では、オンライン/オフラインでポリゴンの編集が同時にできるという cow が大変おもしろかったです。地図版 Google Docs といった感じの技術ですが、node.js と websocket を使って実現しています。何か仕事で使ってみたいです。オープンソース。
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というわけで、大変充実した出張でした。来年のFOSS4Gはポートランドで開催されることに決まったようです。その前に、11月には FOSS4G Tokyo や FOSS4G Osaka もありますので、ご興味ある方は是非お越しください!